夏休みこそ「あれもだめ、これもだめ」はやめよう B&G財団理事長・菅原悟志

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出来るだけ多くのことを経験させてあげたいという気持ちはあるんですが、なかなか難しいには難しいですよね。お盆休みくらいはなんとかしたいものです。

長い夏休みも中盤にさしかかった。テレビゲームやスマホから離れ子供たちには夏休みを夏休みらしく自然や人と向き合い過ごしてほしい。何事にも替え難い体験になる。子供の学習意欲や自立心を高めるといわれる自然体験は教育効果が大きいとの指摘もある。また五感が育てられ子供時代には欠かすことができない。だが近年、自然体験の機会が減少している。

 豊かな体験をしている子とそうでない子の二極化も進む。要因の一つが夏休みの過ごし方にある。そのため親は意図的にその機会をつくらなければ体験の貧弱化と家庭による差は広がる一方で、夏休みはそれを是正するミッションを持っている。

 だが親自身の体験不足もある。今の親世代が小学生だった1980年代以降、テレビゲームが普及しインドアに傾く時代だ。核家族化や一人っ子化の進行で親子がますます寄り添い、親が子を離さない傾向が強い。少しでも危ないことはさせず、それでは子供の自立心は育たない。豊かさと厳しさが体験できる自然から遠ざけてしまえば成長は望めまい。昨日できなかったことが今日できるようになるのが子供だ。無限の可能性を秘める。危険を理由に「あれもだめ、これもだめ」では冒険心がある子供は息苦しさを感じる。

夏休みぐらい閉じ込めず、まずは「体験させてみる」ことが重要。子供の心は無垢(むく)であるはずだ。それを左右する社会環境を生み出す大人の責任は重い。全国のB&G海洋クラブではマリンスポーツを通し自然体験活動を行っている。当初は危険だと言って消極的だった親も日々たくましく育っていくわが子を見ながら徐々に理解を示し、一緒になって楽しむ様子を目にする。子供だけでなく親も成長するのが自然体験の特長だ。

 鹿児島県北西部に位置し日本最大の養殖ブリの産地である長島町。町内の海水浴場に1日、熊本県南阿蘇村から来た32人の子供たちがニッパーボードやカヌー、水泳などマリンスポーツを楽しんだ。ニッパーボードは救命用のレスキューボードを縮小したもので波乗りができる。サーフィンに似ていることもあり子供に大人気。風や波が行く手を遮り最初は思い通りにいかないが、挑戦を繰り返し上達する子供の姿も。小学4年の女子児童は「初めて海で遊んだ。またニッパーボードに乗りたい」と日焼けした笑顔で話す。

この夏、熊本地震で被災した子供たちを元気づけるため熊本市、宇城市、南阿蘇村を対象に5回、約340人を招きマリンスポーツ体験を行った。小学5年の男子児童は「毎年家族で海に行っていたけれど、昨年は地震で行けなかった。やっぱり海は楽しい」と新たな思い出を刻んだ。地震から1年4カ月弱。その傷痕はいまだ残る。それにより自然体験の機会を失う子供も少なくない。この事業を実施した理由はそこにある。

 「体験格差」といった言葉も生まれ、家庭の経済格差に起因するともいわれる。厚生労働省によれば2015年時点で子供の貧困率は13・7%。7人に1人が貧困状態。一人親世帯では50・8%に上る。子供の貧困対策は学習支援が主であり、重要性が説かれる自然体験にはあまり目が向けられてこなかった。格差を少しでも埋めることを目指し、一人親家庭や児童養護施設の子供を対象とした体験活動も展開している。

 子供たちに多くの体験を、と願うのは健やかな成長にとってとても大切でありその後の人生に影響を与える可能性がある。夏の子供はもっと自然の中に、人の中にいてほしい。さあ出かけよう、自然が待っている。

 (産経新聞より)